月夜のでんしんばしら

 さっきから線路の左がはで、ぐわぁん、ぐわあんとうな
っていたでんしんばしらの列が大威張りで一ぺんに北のほ
うへ歩きだしました。みんな六つの瀬戸物のエポレットを
飾り、てっぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしゃっぽを
かぶって、片脚でひょいひょいやって行くのです。そしてい
かにも恭一をばかにしたやうに、じろじろ横目でみて通
りすぎます。
 うなりもだんだん高くなって、いまはいかにも昔ふうの
立派な軍歌に変わってしまひました。
 「ドッテテドッテテ、ドッテテド、でんしんばしらの
  ぐんたいは はやさ せかいにたぐひなし
 ドッテテドッテテ、ドッテテド、でんしんばしらの
  ぐんたいは きりつ せかいにならびなし。」
                         宮沢賢治